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臨時列車
No.1~No.10

No.1 伊豆急行2100系 THE ROYAL EXPRESS 厚内

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 2017年7月21日、横浜と伊豆を結ぶ新たな観光列車【THE ROYAL EXPRESS】が運行を開始した。伊豆急行の2100系5次車【アルファ・リゾート21】を改造したもので、伊豆での宿泊をセットにした貸切列車として定期的に運行。食堂車では食事が楽しめ、片道3時間程度の乗車ながら、豪華な旅が楽しめるようになっている。深みのあるブルーの塗装に丸みを帯びた屋根は、往年のブルートレインを彷彿とさせる仕上がりとなっている。2020年と2021年の夏から秋にかけては、石勝線・根室本線・釧網本線などを経由し【HOKKAIDO CRUISE TRAIN】として北海道を一周した。直流電車のため道内では自走できず、専用のディーゼル機関車と電源車を連結した編成で運行された。

 伊豆で育った私にとって、種車となった【アルファ・リゾート21】には愛着があり、転職先の北海道で再会することになろうとは夢にも思わなかった。夜間に宗谷線で帰宅すると、旭川運転所に灯りをともして佇む【THE ROYAL EXPRESS】の姿を見つけた。美しいたたずまいに魅了された私は、次の運転日に同列車を追いかけることにした。当日は新千歳空港で東京から来た友人と合流し、増田山の俯瞰や池田駅でのスナップを楽しんだ。ホームが明るく撮影できそうな厚内をこの日最後の撮影場所に決めて、車を走らせた。ほどなくして列車が入線。数分停車し対向のキハ40系普通列車をやり過ごして発車。機関車牽引の列車らしく、ゆっくりと動き出した姿は、疑いようもなくブルートレインであった。

​(2021年9月17日 根室本線 厚内)

No.2 HB-E300系 リゾートしらかみ 深浦~広戸

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 ひと昔前の観光列車といえば、様々な経緯で余剰となった車両を改造したものが多かった。この五能線も例外ではなく、平成初期に走っていた【ノスタルジックビュートレイン】は50系客車、初代の【リゾートしらかみ 青池編成】はキハ40系を改造したものであった。JR東日本が「のってたのしい列車」と銘打ち、次々と新たな観光列車を登場させていた2010年代、東北新幹線新青森開業にあわせて登場したのが2代目の【リゾートしらかみ 青池編成】で、完全新造のHB-E300系。ディーゼルエンジンとリチウムイオン蓄電池を組み合わせて駆動するハイブリットシステム車両で環境にやさしく、世界自然遺産白神山地に相応しい観光列車となった。

 撮影当時の五能線では、引退の兆しが見えてきたキハ40系の普通列車が格好の被写体としてレイル・ファンの注目を集めていたが、私は寧ろ、爽やかな青いラッピングがステンレスボディに似合う【青池編成】のダイヤにあわせて五能線を訪れていた。赤みがかった大きな奇岩がごろつく海岸線は撮影地も豊富で、何度通っても飽きが来ない。この日は昼過ぎに五能線を走る3号を行合崎から狙った。美しい景観を見せるために徐行する列車を、こちらもじっくりと堪能させてもらった。

​(2019年6月1日 五能線 深浦~広戸)

No.3 E001形 TRAIN SUITE 四季島 磐梯熱海~中山宿

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 鉄道による長距離移動の主役が寝台列車から新幹線に変わった昨今、時間を忘れて最上級の移動空間でまだ見ぬ日本を探しに行く旅。JR東日本が生み出した【TRAIN SUITE 四季島】は「深遊 探訪」をテーマに東日本をめぐるクルーズトレイン。季節や曜日によって運行経路を変え、豪華な寝台個室から眺める車窓や食堂車での食事や様々な催しを楽しみながら、東日本や北海道の景勝地をめぐり始発駅の上野へ戻ってくる列車だ。運行を開始した2017年から2021年までは山梨・塩山や長野・姨捨をめぐり日本海側を経由してから会津を観光する1泊2日のコースが運転されていた。2日目の朝に阿賀野川に沿って夜明けの磐越西線を走るため、川霧に包まれたシャンパンゴールドの車体を追いかけるレイルファンで沿線は賑わっていた。

 俯瞰撮影の醍醐味は、撮影地からの眺めはもとより、そのアプローチにも詰まっている。この磐梯熱海の俯瞰は、林道を歩いたのち、高圧電線の敷設のために切り拓かれた山の斜面を登る場所。全行程40分程だが、日当たりの良い轍を歩くのはとても気持ちが良く、撮影地について荷物をおろし、汗ばんだ身体を初夏の風が撫でれば気分も爽快である。

​(2019年6月2日 磐越西線 磐梯熱海~中山宿)

No.4 EF64形 12系回送列車 津久田~岩本 

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 EF64形1000番代は上越線の豪雪や急勾配に耐える機関車として1980年に登場。同線を中心に中央本線や伯備線などの勾配線区で貨物や寝台特急の牽引に大活躍。旅客用にJR東日本に継承された車両は現在、定期運用こそもたないものの、臨時列車や回送列車の牽引や新車・廃車の配給輸送に勤しんでいる。

 写真家時代、通常時と異なる編成の列車はあまり撮らなかった。商業用としてはあまり売れないからだ。甲種・配給輸送や各地の臨時列車で使用する客車の回送は興味深いものであったが。商売である以上、金にならないネタに時間は割けない。とはいえ、定期列車を待っているときに出くわせば撮らない手はない。​この日は上越線の211系を撮ろうと棚下の俯瞰へ。河岸段丘の底にできた少ない平地で様々な農作物を育てる様子は北関東の山間らしい風景だ。211系を撮影して撤収しようとすると、同業者が現れ、もうじきEF64形牽引で12系客車の回送列車が通過するとのこと。この少し前に磐越西線で使った12系を高崎へ返却するための列車のようだ。御礼を言って撮影続行。この写真はあとで撮影地ガイドに使われたが、定期列車が中心の誌面で良いアクセントになった。

(2019年6月25日​ 上越線 津久田~岩本)

No.5 DE10形 SL冬の湿原号(DL代走) 塘路~細岡

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 No.4で記したように写真家時代にはネタ物をあまり撮らなかった。しかし、写真家を廃業したとなれば話は別。撮りたい被写体と休みが合えば、どこにだって何回も行ってしまう。毎冬の恒例となったSL冬の湿原号。2022年シーズンは営業運転を目前にしてC11 171号機が故障してしまった。私自身も楽しみにしていたSLの運転だが、代わりにDLで運転されるという。SLにはSLの迫力があるが、朱色のDLが牽く客車列車は昭和後期のローカル線そのもので、国鉄色のDE10 1690ならば俯瞰にも映える。

 今回のDL代走には結局3回も通ってしまった。同じ道内とはいえ、24時間勤務を午前中に明けて釧路へ直行し、その日の復路と翌日往復撮影して帰路に就くのは身体に応えた。この写真の場所は新夢が丘と呼ばれる俯瞰撮影地で、湖畔のキャンプ場から林道へ入る。尾根伝いに1時間も歩けば、蛇行する釧路川に雪に覆われた釧路湿原という、道東を象徴する景色が眼下に広がっている。9時頃に通過するキハ54形の普通列車も撮影しようと朝8時台に現地へ到達し、昼頃の「冬の湿原号」まで3時間程度待った。余談だが、私も含め居合わせた同業者たちは、寒さをしのぐためにお菓子や暖かい飲み物を持参してきており、準備の良さに我ながら感心した。

​(2022年1月29日 釧網本線 塘路~細岡)

 

No.6 C56形 SLかわね路 塩郷~下泉

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 大井川鐵道は高校生のときから度々通っていた。写真部で行ったこともあったし、開港したての富士山静岡空港へ撮影に出掛けた父に新金谷で降ろしてもらって電車移動したこともあった。免許を取ってからは朝早く実家を出て東海道新幹線と掛け持ちで出向いたことも多かった。

 2012年の春は随分と遅かった。SNSも今ほど流行っておらず、頼みの綱は大井川鐵道の公式情報や個人ブログ。家山の桜が終わるころに下泉や田野口が見頃を迎えるので、家山の開花情報を目安に出掛けた。この日は写真仲間の車の助手席に乗せて貰って、早朝の東京を発って東名高速の吉田で降りた。まずは新金谷駅で機関車の運用チェック。C56が千頭まで往復するようなので、往路を田野口で手堅く抑えたら、復路をサイドビューで撮ることにした。三脚を据えたのは下泉の鉄橋。光を透かして輝く桜は暗い山肌によく映えた。ボイラーが細く煙突が長い機関車はシルエットが美しい。

(2012年4月8日 大井川鐵道 塩郷~下泉)

No.7 上毛電気鉄道デハ101号 新屋~粕川 

 2022年の年末は帰省がてら関東を撮って回った。27日の朝から高崎駅前でレンタカーを借り、上毛電気鉄道を狙ってみることに。粕川駅近くの踏切で引っかかると、目の前を通り過ぎたのはデハ101号。あまりに唐突の出会いに驚き以外の感情が浮かばなかった。事情はわからないが、西桐生方面へ向かった同車はそう遠からず大胡の車庫へ戻るはず。とりあえず地図を頼りに昼頃順光になる新屋~粕川に陣を構えた。その場にいた若人に聞けば、何やら検査後の試運転らしい。どおりで美しく化粧直しされているわけだ。やがて、長く続く直線の向こうに、ぼんやり輝く大きな一灯のライトが見えた。北海道で暮らしていると冬の関東の安定した澄んだ青空が羨ましく、懐かしくもある。写真の出来を左右するだけでなく、何よりも気分がいい。

(2022年12月27日 上新電気鉄道 新屋~粕川)

No.8 キハ40系 びゅうコースター風っこ 会津塩沢~会津蒲生

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 今年も梅雨の季節がやってきた。近年は毎年のようにどこかの鉄道路線が被災し、数年単位で運休に追い込まれる路線も少なくない。この只見線もそのひとつで、東日本大震災から間もない2011年の7月に沿線を豪雨が襲った。中でも鉄橋が流されるなどの大きな被害が出た会津川口~只見間は廃止も議論されたが、国と自治体とJRで1/3ずつ、復旧費用を出すことで決着がつき、2022年10月に同区間での運転が再開された。

 大型連休の”脱北”最終日、青森発フェリーの時刻は翌午前2時。出航1時間前にはフェリーターミナルに着いていたい。トラブルに備えてこの日は東北で過ごすことにした。何か面白いネタはないかと探ってみると只見線を”風っこ”が走るようだ。未明の六十里越ドライブを楽しみ、始発列車に合わせて第一橋梁に三脚を据えた。静かな川面を渡る普通列車を楽しんだ。"風っこ"は昨秋の復旧区間でも撮りたかったので、第一橋梁での撮影後に追いかけた。事前に目星をつけていた第八橋梁近くの蒲生岳バックへ。新緑で覆われた美しい山容に、鮮やかな車体が映える。

​(2023年5月6日 只見線 会津塩沢~会津蒲生)

No.9 雨宮21号 丸瀬布森林公園いこいの森

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 昭和中期まで各地で見られた森林鉄道。丸瀬布森林公園では当時使われていた蒸気機関車の1両"雨宮21号"が動態保存され、春から秋にかけて園内を駆け回っている。

 社会人の宿命「転勤」の便りがついに私にも届いた。旭川で2年間暮らしたが、近所に宗谷線や石北線が走り、気の向くままに出かけられたのは、恵まれた撮影環境だったように思う。6月中旬、丸瀬布森林公園にようやく訪問できた。​前々から行きたいと思っていたのだが、当地の運転日と私の休日(不定)と天候がなかなか噛み合わなかったのと、何よりもJRばかり追いかけていたこともあって、滑り込みセーフでの訪問と相成った。

 当日は太陽にうっすら傘がかかっていた。ピーカン至上主義の私だが、この日ばかりは木立に差し込む柔らかい光線がありがたかった。小川に沿って咲く花はクリンソウという湿地を好む花らしい。甲高い汽笛が爽やかな北海道の初夏を彩った。

​(2023年6月11日 丸瀬布森林公園いこいの森)

No.10 津軽鉄道DD352 旧客桜臨 芦野公園

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 どうしても仕事で抜けられなかったり、何かしらの「ケチ」をつけたりして、撮れなかった被写体は無限にある。近年の客車列車では、只見線全線運転再開記念の旧型客車や、何度か運転された奥羽線の12系などである。特に奥羽線は時間をやりくりすれば1度は行けたと、今になって後悔している。何も客車列車はJRだけのものではない。気になっていた私鉄、津軽鉄道ではストーブ列車のほか、桜や立佞武多の時期に旧客を走らせている。満開の芦野公園、桜のトンネルを列車がくぐる姿はお馴染みの光景となっているが、良い条件で、良い構図で、自分のものにしたい。天気予報と開花情報をよく見て、青函フェリーの乗船券を確保した。

 朝3時過ぎに着くフェリーで青森へ降り立つ。旧客の芦野公園通過は昼過ぎなので、どこか他へ寄り道しても良いのだが、立ち位置が狭いことを考慮して、まっすぐ現地へ向かった。5時ごろ現地に着いたが、すでに先客がいる。ひとまず場所を確保して、始発列車で津軽中里へ。貸切の列車からは岩木山がよく見えた。折り返しは芦野公園を通り過ぎて、ひと駅先の金木まで。知らない街の朝の空気は澄んでいて、気分良く芦野公園まで歩いて帰ってきた。公園のなかを散歩したり、前走りの普通列車で構図を確認。周りの撮影者も用意が良く、レリーズやライブビューで撮るため三脚の間を詰められ、皆が撮影できる条件が整った。暖かい日射しのもと、ロッドが作り出す独特のリズムを奏でて、待ちに待った本命がやってきた。

​(2024年4月22日 津軽鉄道 芦野公園)

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