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特急・新幹線
No.1~No.10

No.1 N700S のぞみ 三島~新富士

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 鉄道写真には誰が決めたかわからない構図のルールが存在する。そのひとつが、主役となる列車との対角に山や花を配置するとバランスがよく見える、というもの。確かにその通りだし僕もよく使う構図の組み方である。たとえば、山の前を列車が横切る場所なら、列車の先頭とは対角に山を配置するといった具合にだ。しかし、それで己の信念は突き通せるか。言うまでもなく富士山は日本人が大切にしてきた山。富士山は写真の、いや人々の心の真ん中でどっしりと構えていてほしい、構図の隅に追いやるなんて私には真似できない。静岡県で育った私にとっては宝永火口も富士山を構成する大事な部分だから写真に収めたい。撮影に発つ前、そんなことを考えていた。
 3月の富士山は山肌と雪のバランスがよく、年間を通して一番好きな姿。転職前最後の仕事を終えて引っ越しの準備に追われながらも天気予報と毎日にらめっこ。連日の雲や霞みに悩まされ、課題を残したまま東京を去るのかと諦めかけた引っ越し当日、ようやく訪れた全快予報。行くしかない、鉄道写真家最後の撮影として素晴らしいロケーションじゃないか。未明の東名高速を飛ばして、田子の浦に辿り着いた。富士山が画面中央かつ架線柱の間に抜け、山裾の橋や鉄塔が目立たない位置に三脚を据えた。そういえば、ここに初めて来たのは5歳のとき。父親に連れられて東海道新幹線に乗り入れ始めたばかりの500系を見に行ったのをそれとなく覚えている。父曰く、私のお気に入りは500系や引退の迫っていた0系や全盛期を迎えていた300系でもなく、100系グランドひかりだったらしい。時々山肌に現れては消える小さな雲にヒヤヒヤしながら、最新鋭車両N700Sを待つ。J1編成が画面に飛び込むと、気合いの一発切りでレリーズを押し込んだ。
 チャレンジする人を常に支えてきた東海道新幹線。私も気持ちを新たに、北海道行きのフェリーを目指して富士山に別れを告げた。

                                        (2021年3月26日 東海道新幹線 三島~新富士)
 

No.2 185系 踊り子 戸塚~大船 

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 信号現示の指差確認喚呼は信号機が見えたときにやるものかと思っていたが、位置が決まっているそうだ。小さく数字が書かれた標識が架線柱等に掲示されており、指差確認喚呼はここを通過する際に行われる。標識に書かれた数字は次の信号機から何番の閉塞に入るかを表しているとのこと。

 位置が決まっているならば、作戦を立てて撮りに行きたい。お馴染み戸塚カーブを抜けたあたりの架線柱に「4」と書かれた標識があり、ここで185系【踊り子】を狙う。フレームアウトで顔面を切りとって、窓から白い手袋が覗けば完璧だ。正面からの低い光が乗務員室まで差し込む107号を撮ることにした。前走りの105号や普通列車で編成のはみ出し方や指差確認喚呼の位置を見定めると、運転士により個人差はあるが、定番の切り位置よりも手前で撮ると腕が一番伸びた位置を切り取れるようだ。あとは運転士がきちんと所作を決めてくれ、マスクをしていないことを祈った。10時32分、戸塚駅を定刻で通過した踊り子107号がフレームイン。運転士が腕を振り下ろすのに合わせてこちらもシャッターを押し込む。「第四閉そく進行!!」

(2019年11月29日 東海道本線 戸塚~大船)

 

No.3 キハ261系 おおぞら 厚内~音別

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​ 日の出の時刻は太陽の天辺が水平線から出た瞬間で、そこから下辺が出切るまでは約2分半。1月8日、釧路市の日の出は6時53分だから太陽の全貌を拝めるのは6時56分頃、ということになる。まさにこの時刻、尺別の丘を通過するキハ261系【おおぞら】がある。

 2021~2022年の年末年始は道外出身&新入社員の私に会社が配慮してくれたので、とても社会人とは思えない8連休となった。北海道へ戻ってきて最初の撮影は縁起のいいものにしようと、日の出と新型特急を絡めることにしたのだ。勤務が明けて帰宅し午前3時に起床。少し出発が遅れてしまったので、いつもの三国峠は使わず、富良野を経由してトマムから高速に乗った。このルートなら真冬でも3時間で旭川から現地へ辿り着ける。薄暮の斜面を登り、冷たい風に耐えて三脚を伸ばす。白糠~音別の海岸線に列車のライトが見えた頃、太陽はまだ海の下。音別駅に向けて内陸に進路を取った頃にようやく天辺が見えた。太陽が水平線から離れて気嵐を照らすとステンレスのボディを輝かせて【おおぞら】が通過。素敵な一年になりますように。

(2022年1月8日 根室本線 厚内~音別)

No.4 キハ72系 ゆふいんの森 豊後中村~野矢

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 母いわく、幼少期の僕は【ゆふいんの森】のプラレールがとても気に入っていたらしい。写真展の開催に至った185系もそうだったが、緑色の列車が昔から好きだったようだ。2015年に撮影を目的とした旅行では初めて2015年に九州を訪れた際も、真っ先に訪れたのは5両編成になったばかりのキハ72系【ゆふいんの森】だった。

 駆け出しの写真家だった2019年のGW、当時半決まりだった撮影地ガイドの企画を本決まりに持ち込むため、作例を撮りためようと、新緑の眩しい九州にいた。この日は空気の澄んだ晴れながらも雲が多め。平地は避けて、ピンポイントで光が当たってくれればいい森のなかで撮影をすることにした。新緑で画面がいっぱいになるように構図を組んで列車を待った。

​(2019年5月5日 久大本線 豊後中村~野矢)

No.5 789系 ライラック 妹背牛~深川

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 日本海側の冬、しかも夕方に晴れるとなれば、どれだけ疲れていてもハンドルを握って線路際に繰り出すのがマニアの性である。東京に住んでいた頃、冬の北海道に何度か来たことがあったが、気象に関しては住んで実感したことが二つある。まず、冬の夕方は滅多に晴れないということ、次に、気温がずっと氷点下なので降ってから相当の時間が経過してもパウダースノーのままであること。

 これらの教訓を踏まえて年が明けた1月9日、夕方まで晴れ予報の大チャンスがようやく巡ってきた。前日の夕方まで根室の落石海岸にいた疲れもなんのその、意気揚々と撮影に出向いた。残照が頬を光らせつつも、LEDのヘッドマークが浮かび上がる日没寸前に通過予定の【ライラック23号】を待つ。数分遅れていたのが幸いし、雲の下から夕陽が顔を出すと踏切が鳴り汽笛が聞こえた。

​(2022年1月9日 函館本線 妹背牛~深川)

No.6 485系 北越 笠島~青海川

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 2015年3月に北陸新幹線が金沢まで開業するまで、新潟と金沢を結んでいたのが特急【北越】で、国鉄色の485系を使用した最後の定期特急列車であった。国鉄色のほか上沼垂色やリニューアルを施された3000番代も走っていたが、レイルファンにとっての人気はやはり国鉄色で、6両編成と短いながらもグリーン車を組み込んで北陸・信越本線を疾走する様は、力強く頼もしかった。

 さて、写真を学ぶ大学に通っていた私は、鉄道写真よりも風景写真を好んで撮る友達とよく出掛けていた。このときはレジ打ちがあまりにも苦手でカメラ屋のバイトをクビになったばかりの私を誘ってくれて、新潟県沿岸部をドライブがてら撮って回った。確か次のバイトをどうするかが主な話題だったと記憶している。昼過ぎ、笠島~青海川で【北越3号】を待った。海岸へ降りる歩道を上がったり下がったりしてベストな立ち位置を探した。太平洋側育ちの私には、顔に凍みる風雪の冷たさよりも、雪が降っているのに積もらない光景が新鮮だった。大荒れの海岸線へ定刻に現れた国鉄色の485系と、強風が顔に直撃しないように後ろ歩きで車に戻った友達の姿が印象的だった。

​(2012年1月7日 信越本線 笠島~青海川)

No.7 キハ187系 スーパーまつかぜ 折居~三保三隅

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 伊豆の次に美しい海はどこ?と聞かれたら、私は迷わず「山陰」と答える。レイル・マガジン誌145号「国鉄王国『山陰』は今が旬!!」の作品しかり、日々アップされる【特別なトワイライトエクスプレス】の写真を見て、エメラルドグリーンの海に心を惹かれていた。初めて夏の山陰を訪れたのは写真事務所に勤めていた2018年のこと。とはいえ当時撮っていた写真は大人の事情によりここでは掲載できないので、フリーの鉄道写真家時代に撮っていた作品をお見せしたい。

 山陰本線と海を絡める撮影地をあげればキリがないが、三保三隅付近は線路が特に低い位置にあり、振り子式特急で海側に車体が傾くと車窓は一面エメラルドグリーンに染まる。定番撮影地の道の駅に車を止めて、小川とともに線路をくぐれば、弓なりの砂浜が待っている。初夏の海は足を浸すのに丁度良い冷たさだった。

(2019年6月5日 山陰本線 折居~三保三隅)

No.8 キハ261系 サロベツ 日進~智恵文

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 北海道に引っ越してきて丸一年経つが、最寄り路線には自然と愛着が沸くもので、散歩がてら近所の植物や雪の積もり方に目を向けて、四季の進み具合を見ながらよく出掛けたのが宗谷本線だった。特急にしてもラッセルにしても泊まり明けで間に合うポイントはたくさんあり、撮ってすぐ帰れば翌日に疲れを引きずることもない。

 紅葉の見頃にあわせ、前の週までに常紋や狩勝といった峠を撮り納めて、宗谷南線の平野部へ。目を付けていたのは上りラッセル撮影でお馴染みの東恵橋。名寄方にカメラを向けると色とりどりの雑木林の合間を縫ってレールが敷かれている。日当たりの悪そうな木の根元までクマザサに覆われているのは北海道らしい光景なのだろうか。秋の柔らかい日差しを浴びて、最北を目指す【サロベツ】が往く。

(2021年10月24日 宗谷本線 日進~智恵文)

No.9 EF66形+14系15型 富士・はやぶさ 函南~三島 

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 寝台特急【富士】+【はやぶさ】が消えたのは2009年3月、私が高校1年生のときのこと。普段は教科書が詰まっているエナメルバッグにカメラを押し込み、父から無断で借りたハスキー4段を襷掛けにして、毎週のように自転車で沿線へ出向いていた。夏には最初で最後の九州ブルートレインの旅を存分に楽しんだ。

​ 数ある東海道本線の撮影地のなかでも思い入れ深いのが上沢のカーブ。三島方と函南方のどっちを向いても編成が撮れるし、斜面に上れば俯瞰気味に撮れたので何度も通った。そして、線路のそばに大きな梅の木がある。隣接する畑を耕していた地主によれば、昔は梅の木も手入れをして実を収穫していたが今は手をつけておらず、近く切り倒してしまうそう。寒さも温んだ2月の中旬に立派な花をつけた。梅と九州ブルートレイン、どちらにとっても最後の春であった。

(2009年2月15日 東海道本線 函南~三島)

No.10 50000形VSE 開成~栢山

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 箱根の旅をより楽しいものにしてくれる「展望席のある特急ロマンスカー」。50000形は2005年に登場し、その一翼を担ったが。特殊な車体構造ゆえに維持が困難となり、2022年春をもって定期運用から引退。以後は2023年秋の完全引退に向けて臨時列車として活躍している。

 まだ新しいと思っていた車両の引退は衝撃的で、年末に北海道から静岡へ帰省する道中に、その最後の活躍を納めようと小田急沿線へ繰り出した。その特徴ある先頭形状を活かそうと、順光になる下り列車では開成のインカーブで伸びやかに走る姿と富水の首カックン構図で手堅く編成写真を切り取った。その折り返しとなる上りは栢山~開成のストレートで流すことにした。展望席の窓に光が差せば、暗く沈む山に白いボディが映えるはず。連接台車特有のジョイントに合わせるかのように軽くカメラを振った。

(2021年12月27日 小田急電鉄 開成~栢山)​

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